遺産が少なくても相続問題は起こる
相続で揉めるのは、多額の遺産があるケースだけと思ってはいませんか。週刊誌やTVなどで、有名人が亡くなり、その遺産相続で揉めている事件が報道されている影響かもしれません。
しかし、実際には、遺産が多いケースよりも、そうでないケースの方がかえって相続人同士の争いは発生するのです。
近時の司法統計によると、「家庭裁判所に持ち込まれた遺産分割事件(認容・調停成立したもの)について、遺産額による事件数割合を調べてみると、
遺産額が1000万円以下の事件件数割合は33%、
さらに5000万円以下になるとその割合は75%となっています。
このように、遺産額が少なくても、むしろ遺産額が少ない方が、相続人の間で揉めることが多いということがわかります。
「自分には財産があんまりないから遺言なんて関係ないよな」なんて考えて、自分が亡くなった後に親族が揉めて関係性が悪くなってしまう、なんていう未来、考えたくないですよね。
相続で揉める原因は?
まず圧倒的に多いのは不動産を所有している場合
また、前記統計では、遺産額が1000万円以下の事件のうち、「遺産が不動産だけである事件」の割合は45%を占めています。さらに遺産額が1000万円超5000万円以下の事件では、その割合が22%となっています。このことから、遺産額が少ない事件では、その半分近くが不動産の相続が原因で争いが起きていることがわかります。
つまり、親が残した遺産が自宅不動産だけで、その査定額が1000万円以下であるようなケースでは、相続人同士で揉める率が高いと言えます。
「うちは財産が少ないので揉めることはない」「自分は関係ない」などと思わず、家族のことを思って事前に弁護士や税理士などの専門家に相談し、対策しておくことをお勧めします。
どの案件も故人の意思である、遺言書さえあればそれを尊重しようとします。その点で見ても遺言書を書くことは非常に重要ですね。
遺産の大半が実家であるケースは一番揉める
相続で争いになる典型例は、親の残した遺産の大半が実家であるというケースです。
なぜ、揉めるかというと、複数の相続人がいた場合、実家の処分で意見が分かれるからです。売却した代金を相続分にしたがって分ければ問題ないのですが、中には売りたくないと考える相続人もいます。また、親と同居していた子は売却すると住居を失うことになるし、かといって、他の相続人の持ち分を買い取るほどの資金もないことが多く、遺産分割の方法について争いが起きるのです。
結局、実家は売却できないまま相続人全員の共有となり、大体の場合、遺産分割は先送りされることになります。そして、解決しないまま時間が経てば、相続人に相続が起こるなどして、子の子、などと相続人が増えていき、問題はさらに複雑化していくのです。
親が元気なうちに話し合っておく
もし兄弟姉妹がいて、高齢の親が持ち家に住んでいるような方は、将来、必ず相続問題が発生すると考えておくべきです。
「うちは兄弟姉妹の仲が良いから大丈夫」と安心している方も今一度考えてみてください。家族の精神的支柱である親がいればこそ、兄弟姉妹も表面的に仲が良いだけかもしれません。また、兄弟姉妹にはそれぞれ配偶者や子がいて、実際には相続人以外の者も相続問題に関与してくることが多いのです。
揉めるのは兄弟ではなく、その配偶者が、、なんて話もよく聞きます。
よって、相続問題は親が元気なうちに家族で話し合っておいたほうがよいでしょう。必ずしも、話がまとまる必要はありません。将来起こりうる課題について、親とその相続人が問題意識を持っておくことが大事なのです。
以下では、このような争いを未然に防ぐための手立てについてお話します。
遺言書の作成
遺言書とは、自分の財産の相続方法を指定するために文書です。
自分の死後に相続人間で揉めるのを防ぎたい、財産を残したくない親族がいる、財産を寄付したいなど法定相続では不都合があるとき、遺言書を残すことによって被相続人の意思を相続に反映することができます。
遺言はその人の生前の意思を尊重する制度ですから、遺言はいつでも撤回することができます。また、後に作った遺言は先に作った遺言に優先します。ですから、あまり重く考えずに、いつでも作り直すつもりで作成してみてはいかがでしょうか。
遺言書の種類
遺言書には3つの種類があります。
①自筆証書遺言
これは、ご自身で作成する遺言書のことです。
費用がかからず、自分だけでいつでも作成することは可能です。また、これまでは全文を自筆で記入する必要がありましたが、民法改正(平成31年1月13日以降施行)により、その条件が緩和され、より作成し易くなりました。ただ、法定の条件を満たさなければならず、様式の不備があった場合無効とされる可能性もあります。
また、自筆遺言証書が正式に効力をもつには、被相続人の死後、家庭裁判所の検認(真正なものか否かを調査する手続き)を経る必要があります。
②公正証書遺言
公証役場というところで証人2人以上の立ち合いのもと、被相続人が遺言内容を公証人に口述するかたちで遺言書を作成します。①の自筆証書遺言より若干ハードルがあがり、手続きに費用はかかりますが、作成後、遺言書(原本)は公証人役場で保管されるため、自筆証書遺言のように、偽造・変造の心配がありません。
③秘密証書遺言
遺言内容を秘密にしておきたい、他人の前で読み上げられたくない場合に作成します。しかし、秘密証書遺言は実務ではあまり利用されていないのが現実です。
遺言書は自分一人でも作成することはできます。しかし、遺言書は財産権の移転や分配方法を記載する処分文書です。
弁護士と相談しながら作成する方がより確実な遺言書が完成します。遺言書の効力が発生するのは自分の死後であり、事後に訂正ができません。専門的な知識がないまま作成すると希望通りの結果が担保できなかったり、無効とされる恐れもあります。また、弁護士や司法書士などの専門家に自分の意向を理解しもらい、遺言案を作成してもらった方がスムーズに作成できます。
遺言書の作成を専門家に依頼した方がより良いケース
次のケースに該当する方は、相続人同士のトラブルを防ぐためにも、遺言書の作成を相続問題に詳しい弁護士や司法書士にご相談することをお勧めします。
(1)法定相続とは異なる遺産分割の方法を望んでいる場合
法定相続にしたがった遺産分割ではかえって不公平となるため、それと異なる相続分を定めたい場合や法定相続人以外の者に相続させたいような場合
ただし、遺留分(妻や子など一定の相続人に認められた最小限の相続分のこと)を侵害し得ないので、弁護士など専門家のアドバイスが必須です。
(2)会社経営者が特定の相続人だけに会社や事業を相続させたい場合
会社のオーナーがなくなった場合、その会社の所有権(株式)は法定相続分にしたがって相続されます。これでは株式が分散してしまい会社としての意思の統一が図りにくくなります。このような場合、遺言によって特定の相続人だけを後継者に指定し、事業を承継させることができます。
(3)相続人同士が不仲の場合
相続人同士が不仲で疎遠な関係であるような場合には、親がなくなればまとめ役もいなくなり、そのうえ相続財産の分け方で話し合わなければならないとすると、トラブルになる可能性が高いといえます。
(4)前妻の子がいる場合
前妻との間に子がいた場合、もちろんその子も相続人です。しかし、その後連絡を絶ち、所在もわからないことがあります。自分の死後に相続人間で話し合う手間や相続人同士のトラブルを避けたいのなら、遺言書にその存在や相続分を明記しておくことをお勧めします。弁護士や司法書士であれば、前妻の子の所在を調査し、あなたの代理人として連絡を取ってくるはずです。
(5)相続人に嫡出でない子がいる場合
「嫡出でない子」とは、法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子をいいます。簡単に言うと、戸籍には出ていない子です。平成25年12月5日、民法改正により、嫡出でない子の相続分が嫡出子の相続分と同等になりました。
しかし、通常、嫡出でない子は存在自体が秘密にされていることが多く、本人の死後、嫡出でない子が現れ、嫡出子と相続争いが起こる可能性があります。もし、弁護士などの専門家と相談しながら相続人にとって公平となる遺言書を作成していれば、嫡出子と非嫡出子同士のトラブルを防ぐこともできます。
- まとめると、遺言書のメリットは以下の2つにあるといえます。
①被相続人の意思を尊重できる点
②相続人同士の争いを回避して円満に相続ができる点
遺産分割について解説!
- 遺産分割とは
被相続人が遺言を残さずに死亡した場合、その遺産は法定相続分にしたがって相続人全員に帰属します。遺産のうち現金や預貯金、債権(社国債、損害賠償請求権など)などの金銭債権は、相続分が金額で決まりますから、遺産分割を待たずして帰属が確定します。よって、分割の必要はありません。
これに対し、土地、家屋などの不動産は相続人全員の共有状態(共同相続)となります。ただ、不動産の共有状態は何かと不便で現実的ではないので、遺産分割をすることになります。
遺産分割(遺産分割協議)とは、このよう共同相続した不動産などの相続財産について、相続人全員の話し合いで、それを各相続人へ具体的に分配していくことをいいます。
相続人全員が分割内容に合意すればよく、何らかの決まりや期限があるわけではありません。
ただし、相続税の申告と納税の期限はともに、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10カ月以内に行わなければならないので注意しましょう(期日を過ぎると高額の延滞税を徴収されます)。
- 遺産分割の方法
親が残した実家などの不動産を遺産分割するにはどのような方法があるでしょうか。
相続が開始した時点で相続不動産は相続人全員の共有となっています。共有とは1つの不動産を複数の者が割合に応じて所有する形態のことです。
相続人全員が共有状態を望んでいるのなら、そのまま、つまり共有分割という方法をとります。しかし、この方法は根本的な解決とはいえません。何故なら、いずれ相続人のうち誰かが単独所有を希望して、遺産分割する必要が出てくるからです。また、共有のままにしておくと、共有者が亡くなった場合、その持ち分が相続されて共有者がどんどん増えていくことになり、問題が複雑化するというデメリットがあります。
次に、現物分割という方法もあります。これは1筆の不動産を数筆の不動産に分割して各自に帰属させる方法ですが、広大な敷地でもない限り、現実的ではなく、不動産の細分化により財産価値が下がってしまうリスクがあります。
単純明快でもっとも合理的な分割方法は「換価分割」という方法です。
これは相続不動産を売却し、お金に換えてきっちり分割する方法です。しかし、相続不動産を売却する必要があり、その費用(仲介手数料、移転登記費用、譲渡所得税など)の負担を考える必要があります。
しかし、被相続人と同居していた相続人が、その不動産に引き続き居住したいという場合には、換価分割という方法をとることができません。そのような場合、代償分割という方法があります。
例えば、実家の名義人である母親が亡くなり、同居していた長男、別所に嫁いだ長女、そして別所で暮らしる次男が、その実家(評価額900万円)を相続したケース(相続分は均等)があったとしましょう。
長男は引き続き実家で暮らすので、その土地と建物を取得します。しかし、これだけでは長男が900万円相当の不動産を相続したことになるので、長男は自分の財布から代償として、長女に300万円、次男に300万円をそれぞれ支払います。結果、均等に財産を相続したことになるのです。
- 遺産分割の流れ
遺産分割をする際の一般的な手順は、以下のとおりです。
・遺言書の有無を確認します。
もし遺言書があれば、遺言の内容にしたがって遺産は分割されるので、遺産分割協議は不要です。家の中から遺言書が出てきた場合、必ず家庭裁判所の検認手続きを経るようにしましょう。勝手に開けたりすると無効になってしまいます。もしどうしてよいかわからないときには、そのままにして弁護士や司法書士などの専門家に相談しましょう。
ただし、遺言書があっても、相続人全員が、遺言とは異なる内容の分割について合意した場合には、その方法で分けても結構です。
次に、分割の対象である遺産(相続財産)の内容や価格を調べます。不動産や株式などはその価値がいくらになるかを算出しなければなりません。
遺産には、プラス財産だけでなく、負債などのマイナス財産も含まれますから注意してください。プラスもマイナスも全てを含めた財産を洗い出したら、これを差し引き控除します。その結果、プラス財産が多い場合には遺産分割をすることになりますが、逆に負債の方が多いなら、相続放棄という方法をとることになります。
遺産分割の当事者は相続人全員です。もしひとりでも抜けると遺産分割協議は無効になってしまいます。よって、相続人が誰であるかの調査が必要なのです。
調査の方法としては、被相続人の出生から死亡までの戸籍をもとに、代襲相続などにも注意しながら相続人を確定していく必要があります。
協議の方法は、必ず全員が顔を合わせて協議をしなければならないというわけではありません。遠方に住んでいたり、疎遠等の理由で協議への参加が難しい相続人については、書面でのやりとりのよって協議を進めていきます。
ただ、分割方法の内容が不合理又は不公平であるような場合は、協議も円満に進まないので、分割案ができた場合には弁護士などの専門家に相談してアドバイスを受けるとスムーズに協議を進めることができるでしょう。
・遺産分割協議書の作成
遺産分割協議が整えば、のちのトラブルを避けるために、通常、遺産分割協議書を作成します。とくに不動産の遺産分割をする場合には、その後、相続登記をしなければならず、その際、遺産分割協議書は必須となります。
この遺産分割協議書は、相続人全員が署名・押印すれば完成します。
相続人が多数いる、遠方にいたり疎遠だったりする場合、弁護士や司法書士などの専門家に作成を依頼する手もあります。遺産分割協議書だけの作成であれば費用はそれほど高くありません。
話がまとまらず、遺産分割協議が不成立の場合には、裁判所に遺産分割調停を申立てます。この調停は、相続人のうちの1人もしくは何人かが、他の相続人全員を相手方として申し立てるものです。
申し立てる裁判所ですが、相手方のうちの一人の住所地の家庭裁判所に申し立てます。なお、当事者が合意で定める家庭裁判所に申し立てることもできます。
調停という種類の裁判を利用するので、裁判所に所定の印紙や郵券を予納する必要があります(費用の詳細は裁判所のHPに記載されています)。
- 遺産分割調停
遺産分割調停とは、遺産分割協議がまとまらない場合などに、家庭裁判所において、調停委員の仲裁の下、話し合いによる解決を目指す手続です(遺産分割調停事件と言います)。
調停手続では、全当事者から事情を聴き、必要に応じて資料等を提出してもらったり、遺産について鑑定を行うなどして、裁判所が事情を詳しく把握します。また、各相続人がどのような分割方法を希望しているかについてその意向を聴取します。そのうえで、裁判官や調停委員が解決のために必要な助言をしたり、ときには解決案を提示したりして、合意を目指し話合いが進められます。
調停手続きですから、当事者本人が出廷することも可能ですが、裁判所から指示された資料等を作成・提出することは複雑で手間もかかるので、弁護士に依頼する方が多いのが現状です。なお、遺産分割事件は家事事件ですから、司法書士では扱えませんので、最初から弁護士に相談することをお勧めします。
- 遺産分割の審判
遺産分割調停でも話がまとまらない場合、遺産分割審判に自動的に移行されます。この審判手続きとは、裁判所が遺産分割の方法について1つの結論(審判)を出す手続きのことで、非公開で進められます。
裁判官は、「遺産に属する物又は権利の種類及び性質その他一切の事情」を考慮して、審判をすることになります。
審判の内容に不服があれば、高等裁判所にさらなる審理を求めること(抗告)が可能です。
家事事件の場合には、裁判官により大きく見方が異なる場合があるので、不当な審判が出されてもあきらめずに抗告まで行い、繰り返し丁寧に、的確な主張を行うことが重要です。
裁判になった場合、どのような主張をそのような証拠で裏付けるかで勝敗は決まります。やはり、このような場合、プロである弁護士、しかも相続問題に詳しい弁護士に依頼するのが一番です。
まとめ
生前に死後の財産整理のことを考えない人は多いでしょう。しかし、相続させる財産のほとんどが不動産であるような方は、今一度、真剣に考えてみてください。自分の死後、わずかな財産のために子供たちが争う可能性が否定できないのです。そして、遺言書を作成しておけば、将来、子供たちは相続争いに巻き込まれることはなくなるのです。
ぜひ、遺産相続についてのあなたの意思を明確な形で残しましょう。
何かあってからでは間に合わないので早めの準備が安心です。まずはお近くの弁護士にご相談ください。