個人民事再生(以下、個人再生)とは、2001年(平成13年)4月1日から民事再生法の改正として、個人再生手続が施行されました。裁判所に申し立てをすることによって、住宅などの財産を手放すことなく、借金を大幅減額させることができる画期的な制度です。自己破産とは異なり、借金がゼロ(免責)になるわけではありませんが、一体どの様な手続きなのでしょうか。解説していきます。
個人再生って何でできたの?
個人再生は、簡単に言うと手続きをすることで、借金を全て返済するのではなく、法律で定められた「最低弁済額」を原則3年から5年の間で約束通り弁済することができれば、その他の借金についてはゼロにしてもらえる(免責)手続きです。
当時、消費者金融がテレビやラジオでCMをたくさん出稿し利用者がたくさん増えていた時期でした。たくさんの方が気軽に利用できる様になった反面、無計画な借り入れで返済が滞ってしまい、住宅ローンも返済できなくなってしまう方が増えてしまった背景があります。
せっかく一世一代の買い物である住まいを失ってしまう方が増えるのは国としても避けたい事態ですので2001年に主に企業向けに作られていた民事再生というルールを個人にも適用できる様に改正した事が個人再生の始まりです。
どれくらい借金を圧縮できるの?
まず、住宅ローンを除いた借金(基準債権総額と言います)を、以下のように減額したものを「最低弁済額」とします。
借金の総額(住宅ローンを除く) | 最低弁済額 |
100万円未満 | 債権総額 |
100万円以上~500万円未満 | 100万円 |
500万円以上~1500万円未満 | 基準債権総額の1/5 |
1500万円以上~3000万円未満 | 300万円 |
3000万円超~5000万円以下 | 基準債権総額の1/10 |
例えば、住宅ローンを除く借金の総額(基準債権総額)が450万円だとすると、最低弁済額は100万円となるので、これを3年間で分割弁済(毎月約2.8万円)することになります。また、基準債権総額が1000万円であれば、最低弁済額は200万円(1000÷5)なので、3年間なら毎月5.6万円、5年間なら毎月3.4万円ずつ支払えばよいことになります。とても大幅な圧縮ですよね。
個人再生が利用できる条件
- 個人であること(サラリーマンのほか、個人事業主で大丈夫です。)
- 住宅ローンを除く借金の総額が5000万円以下であること
- 将来において、一定の収入が見込まれる者であること(雇用形態問わず)
家を守るための手続き「住宅資金特別条項(住宅ローン特則)個人再生とはどのような制度なのか」
個人再生には「住宅ローンに関する特則」というものがあり、この特則を利用することにより、住宅ローンの返済のみを継続しつつ、ほかの借金を大幅減額して計画弁済できるのです。
通常、住宅ローンを組んで住宅を購入しますが、その際、金融機関は融資の担保としてその住宅に抵当権をつけています。
個人再生において、住宅ローン債務を手続きから除外することができなければ、その債権者は抵当権を実行して債権の回収を行うので、債務者は住宅を失うことになります。
借金を整理しても住宅を失ったのでは、生活の場を失い、経済的な再生が非常に困難となってしまいます。そこで、住宅ローンを除外するという特則が認められたのです。
ただし、以下のような場合には、この特則が利用できないので注意してください。
①住宅に住宅ローン以外の抵当権などがついている場合
(例)アイフルの不動産担保ローン登記、国税滞納処分による仮差押えの登記
上記のような登記が付いている場合、たとえ住宅ローンの返済を続けても、債権者のアイフルや国が回収のために抵当権実行または差押えをして、住宅が競売されるので、特則を利用しても住宅を守れないからです。
②居住用の住宅ではない場合
住宅ローンに関する特則は、住居を守ることが目的なので、住宅であっても投資用であったり、事務所として使用している場合には、目的の範囲外となってしまうからです。ただし、事務所兼住居なら、居住に使用する部分が床面積の1/2以上であれば大丈夫です。
③債務者本人が当該住宅に住んでいない場合
(例)単身赴任、離婚後本人以外が居住
再生しようとする債務者の住居を確保するのが目的ですから、本人が居住していない場合にはやはり目的の範囲外だからです。ただし、単身赴任の場合には、使用する頻度によってはこの特則が利用できます。
④ローンの目的が「住宅購入、建設、リフォーム」ではない場合
(例)借入使途が自由なローン(フリーローン)の抵当権が設定されている場合
⑤住宅の敷地のみに抵当権が設定されており、住宅に抵当権が設定されていない場合
⑦保証会社による代位弁済後6カ月以上が経過している場合
住宅ローンを組んだ際、融資した銀行は保証会社の保証を付けます。保証会社は、ローン返済の滞納(通常3カ月以上)があった場合、債務者に代わって銀行に残債務を支払います(代位弁済)。しかしその後、債務者が住宅ローン特則を利用して、個人民事再生を申し立てれば、この代位弁済はなかったことになるのです。その結果、住宅ローン債権は元の銀行に巻き戻され、この銀行を相手に住宅ローン特則を利用することになります。しかし、このような巻き戻しの可能性があると法律関係が不安定になることから、この巻き戻しができる期間は代位弁済後6カ月以内に限るとされたのです。
また、住宅ローンや管理費の長期滞納があるには、利用できないことはないのですが、住宅ローン特則を利用するのが困難な場合があります。
マンションの管理費が長期間滞納されると、法律上、管理組合はそのマンションを強制的に売却してその代金から管理費を回収できることになっています。そうすると、いくら住宅ローンの返済をつづけても住宅を守れないからです。また、住宅ローンの返済を長期間滞納している場合、その滞納が解消されないとそもそも個人民事再生の申立てができないからです。
ちなみに車の場合・・
車についても処分せずに保有したまま個人再生を申し立てることができます。
ただし、所有権留保付きで車を購入している場合には(車検証の名義人欄を見てください、そこにあなた以外の名前が入っている場合、所有権留保付きで購入している可能性が高いです。)個人民事再生の申立てに着手下時点で返済を停止しなければならないので、債権者は留保した所有権を理由に車を引き揚げることになります。
また、高級車や外車など車の価値が高額で、最低弁済額を上回る場合には、その額を弁済する必要があるので注意が必要です(清算価値保障の原則)。
任意整理や自己破産など他の借金整理の手続きとの違い
任意整理との違い
任意整理とは、裁判所を利用せずに、債権者との話し合いによって返済計画を立てて、それを実行することによって債務を整理することを言います。
(詳しくはhttps://muryo-soudan.com/liquidation/2486/を参照)
裁判所を利用しないので、官報に氏名が載ったりすることもなく、整理する債権者(貸金業者)と整理せずそのまま支払っていく債権者(貸金業者)を自分で選別することができるとったメリットがあります。
これに対し、個人再生は裁判所に申立てをしますから、官報に氏名が載り、裁判所は「債権者平等の原則」の観点から、一部の債権者だけを除外して手続きすることを認めてくれません。つまり、お金を借りている相手先、全てを対象に手続きしなければいけないということです。
また、任意整理ではその債権者が合意すれば成立しますが、個人再生では、裁判所が認可してはじめて再生計画が実施されるので、その分、手間や時間を要します。
どちらの制度よいのかについては、それぞれ長短があって、一律に判断はできませんが、任意整理では分割弁済の回数が原則3~5年(36回~60回払い)という限界があったりそもそも借金が圧縮されませんから、債務総額が多い場合には個人民事再生の方が圧倒的に有利でしょう。
例えば、債務総額が1000万円の場合、任意整理では和解弁済金は毎月17~28万円にもなりますが、個人民事再生なら前述のとおり200万円まで減額されるので3年払いなら毎月5.6万円(5年払いなら3.4万円)でよいので、支払いやすさという面では個人再生の方が優れていると言ってよいでしょう。ただ、事案によっては任意整理が有利な場合もあるので、まずは現状を弁護士や司法書士などの専門家に相談しましょう。
自己破産との違い
自己破産はすべての借金がゼロに(免責)されるので、一見、破産が最も優れているとも思われます。しかし、個人再生には以下のような点が破産と異なっていて、これがそのまま個人再生のメリットにもなっています。
(詳しくはhttps://muryo-soudan.com/bankruptcy/2228/を参照)
1:財産(住宅、車など)を保有できる点
個人再生は自己破産と違って計画を組んで返済していく方向の整理ですから、保有する資産を処分する(配当財団に提供する)必要はありません。
特に、住宅ローンを組んでいる人にとってはありがたいことです。住宅ローンは払えるが他の借金の支払いが難しいという人は多いはず。個人再生なら、住宅ローンだけを除外して、その他の債務を大幅減額して計画弁済することができるのです。
2:職業の制限にかからない点
自己破産の申立てをすると手続きが終了して免責が確定するまでの間(概ね3ヶ月から6か月ほど)一定の職業に就くことが出来なくなります。ただし、免責が確定することによりそのような制限はなくなります(これを「復権」と言います)。
(資格制限にかかる職業の例)
- 生命保険募集人(保険外交員)および損害保険代理店
- 宅地建物取引業および主任者(宅地建物取引士)
- 旅行業および取扱主任者
- 警備員・風営法上の管理者(パチンコ店の店長など)
- 弁護士、会計士などの士業
3:借入れ理由が問われない点
自己破産には免責不許可事由というものがあります。これは破産申立人に一定の事由がある場合には、免責させないというもの。(参考までに下に記載いたします)ただし、免責不許可事由があっても、その経緯や反省情況などを考慮し、裁判所が特別に免責許可を出すことも少なくありません(裁量免責)。
(免責不許可事由)
・財産の隠匿等
財産を意図的に申告しない(財産目録から除外)、または隠すために他人名義に変更するような場合
・換金行為等
クレジットカードで買物をしてその商品を直ちに換金する行為(いわゆるショッピング枠の現金化)
・偏頗(へんぱ)弁済
親族や知人などの一部の債権者に対してだけ弁済を行った場合
・ギャンブルや浪費による財産の減少
収入に見合わない贅沢な買物をしたり、競馬やパチンコなどのギャンブル、株取引・FX取引などの射幸行為によって、著しく財産を減少させた場合
・詐欺的な借り入れ
弁護士や司法書士に破産申立てを依頼した直後に、破産することを隠して新たな借入れをする行為
これに対し、個人再生では、借入れの理由は不問です。しかし、借金の原因として浪費があった場合は、その生活態度を改め、健全な家計になったことを、資料をもって裁判所に示す必要があります。個人再生は払っていく方向の整理だからです。
他方、自己破産も個人再生も、裁判所に申立てをして手続きをする点は同じですから、次のような点も共通しています。
自己破産と個人再生の共通点
・借入はすべて申告して一律に手続き処理しなければならないこと(一部の借入だけ除外できないこと)
・一定期間、国の公報紙(官報)に氏名・住所が掲載されること
以上をまとめると、
自己破産による免責手続きは、いわば資産の整理によって過去を清算し、新たな人生の出発を可能にする手続きといえます。よって、過去(債務の形成過程)に重点が置かれます。
これに対し、個人再生は過去を(資産を)維持したまま、将来に向けて支払計画を立てて、生活の再建を果たす手続きといえます。よって、未来(今後の支払能力)に重点が置かれるのです。
1つの債権者が債務総額の過半数を占める場合は要注意
例えば、借金の総額が300万円で、その内、A銀行からの借入れが160万円であった場合で考えましょう。
通常の個人再生、これを「小規模個人再生手続」と言いますが、この手続きでは、最終的に申立人から出された再生計画案(いくらの金額を何年で支払っていくという内容の計画案)を裁判所が認可することによってはじめて弁済計画が確定します。
その際、裁判所は、債権者に対し反対意見があるかを求めます。もし、反対意見が過半数を超えた場合には、裁判所は弁済計画案を認可しないのです。
しかも、この「過半数」は債権額でカウントされるので、上記の例のように1つの債権者が債務総額の過半数を占めているようなケースでは、A銀行が反対意見を出せば、認可が下りず、その結果、個人民事再生は利用できないということになるのです。
では、上記のようなケースでは個人民事再生の利用をあきらめなければならないのでしょうか?
いいえ、ご安心ください。個人民事再生には、特則として「給与所得者等再生手続」というものが認められているのです。
給与所得者等再生手続とは、簡単に言うと、最低弁済額を上乗せする代わりに、弁済計画案の認可の際、債権者の同意を不要とする特別の手続きのことです。
最低弁済額の上乗せとは、どれくらいかというと「最低弁済額」と「可処分所得の2年分」のどちらかが多い方の額と定められています。
(可処分所得とは?)手取り年収(税金、社会保険料を控除)から最低限の生活をするのに必要な費用(年間)を控除した額のことで、必要な生活経費については法令でその額が決められています。
給与所得者等再生手続が利用できる条件についても注意が必要です。
その条件とは、給与またはこれと同様な定期的収入があり、その変動が小さい場合です。
給与所得者(サラリーマン)以外でも、上記の条件を満たせば利用できます。ただし、ケースごとに判断する必要があるので、是非弁護士に相談してみてください。
清算価値とは?
個人再生には最低弁済額があるという話を上でしましたが、その金額はどの様に決定するのでしょうか。ここで「清算価値保障の原則」という難しいお話をします。個人再生においては非常に重要なものなのでご一読ください。
最低弁済額が借金の額によって決まっているというお話をしました。しかし、その最低弁済額には1つの条件がつくのです。それは「最低弁済額は、清算価値を上回っていなければならない」というものです。これを「清算価値保障の原則」といいます。
難しい言葉なので、これから詳しく説明していきますね。
まず清算価値とは、簡単に言うと、その人の財産をすべてお金に換えて清算したときにいくらになるかという価値のことです。
これは自己破産した場合に処分すべき財産の価額と同じと考えてください。破産した場合には、財産をお金に換えて、その価額を金銭で債権者に平等に分配しますね。
財産とは、具体的には、住宅や車、預貯金、保険の返戻金、退職金、株式・社債などの有価証券などです。
では、なぜ、個人再生では、最低弁済額がこの清算価値を上回っていなければならないのでしょうか。
本来、破産であれば破産者の財産(清算価値)は債権者に配当されることになりますが、個人民事再生では財産を保有したまま借金を大幅減額できます。
でも、債権者の立場からすれば、最低弁済額を超える財産をもっているのなら、その額(清算価値)を払ってほしいと考えますよね。
そうでなければ、個人再生ではなく、自己破産してもらって全部売却してもらって清算価値の配当を受けた方が良いわけですから、債権者が個人再生に同意するはずがありません。(上で述べた様に過半数以上の賛成が必要)
実情として、債権者としては、冷たいようですが、債務者が自己破産するか個人再生をするかよりも、どれだけ貸したお金を回収できるかが最優先課題なのです。
そこで法律は、このような債権者の回収利益を保護するため、個人再生においては、
「所定の最低弁済額」と、「破産した場合に債権者が受けられるはずであった財産(清算価値)」とを比べて、少なくとも最低弁済額の方が清算価値を上回るように保障したのです。そうすることで債権者は個人再生に賛成する理由ができましたよね。
つまり、清算価値保障の原則とは、債務者がその保有する財産を処分しなくてよい代わりに、債権者に対してはその財産価値以上のお金を将来にわたって払っていきましょうというルールなのです。
清算価値は、その人の財産状況によってさまざまで、その価値評価も複雑です。
とてもややこしい内容だと思いますが、個人再生は難しい手続きです。是非、まずは弁護士や司法書士などの専門家に相談しておくことが重要です。
個人再生の申し立てをした時に裁判所から選任される「個人再生委員」って何?
個人再生委員とは、個人再生の申立てが行われた際、裁判所の判断によって選任されもので、裁判所に代わって、申立人(再生債務者)の財産や債務額、再生計画案などをチェックする弁護士のことです。
ただし、個人再生委員を選任するかどうかは裁判所の判断によるので、必ず個人再生委員を選任しなければならないわけではありません。
例えば、弁護士に依頼をしている方が個人再生の申し立てを行った場合については個人再生委員を選任しないとする裁判所もあれば、東京地方裁判所のように全件について個人再生委員を選任する裁判所もあります。
裁判所によって方針が分かれるということですね。
個人再生委員が選任された場合には、その報酬(15万円~30万円前後)も手続きの費用として必要となり、裁判所に事前に予納金として納める必要があります。ただし、申立時に一括納付ではなく、申立て後に分割で支払うようなシステムになっています。
個人再生委員は、申立人(再生債務者)やその代理人弁護士と打ち合わせをしながら、再生債務者の財産状況や再生計画(案)を調査し、さらに計画が守れるかどうかをチェックします(とくに家計状況を厳しくチェックします)。
調査が終わると、その結果を裁判所へ報告し、意見を述べます。裁判所は個人再生委員の意見を聞いて個人再生の認可を出すので、個人再生委員との打ち合わせは非常に重要です。
まとめ
いかがでしたか。個人再生は、最近できた自己破産と任意整理の良いとこ取りをしたような制度であることが判りましたね。
しかし、複雑な制度でもあります。自分が利用できるかどうか、何が適しているのか。などインターネットで調べても中々明確な回答を得られないと思います。
今は借金相談を無料で行っている専門家も多いので、是非一度、弁護士や司法書士などの専門家に相談することをお勧めします。
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